今日の本2018年7月31日ゼロの焦点

ゼロの焦点松本清張新潮文庫

ゼロの焦点改版新潮文庫松本清張766円

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時は昭和33年。26歳の禎子は、10歳年上、36歳の鵜原憲一と見合い結婚します。広告代理店の優秀な社員の憲一。ただ、36歳まで独身だったのは何か理由があるのだろうか、と思うとそんな事はなく真面目な誠実な人です。

しかし、新婚一カ月した時、夫、憲一は金沢への出張から戻らず失踪する。

もともと金沢に勤めていて、月20日間は金沢、10日間は東京という二重生活だったのですが、結婚後は東京勤めに変わり、新居は東京に落ち着いた矢先の失踪。

そこで禎子は、36歳の夫の事を何も知らないことに気がつきます。どんな過去があるのか、それなりにあるだろうけれど、憲一は過去を語らない人だったのをなんとなくやり過ごしていたのです。

金沢に行く禎子。もしかしたら死んでしまったのでは?という不安もなくはない。

憲一が独身時代に撮ったと思われる2軒の家の写真。本多と共に調べる憲一の過去。能登半島の冬を背景に、失踪した者を探すという、大筋はそれだけかもしれません。

ところが、もう、読ませるのだ、読ませるのだ。一回読み始めたら、次は、次は?どうなるのか?と引っ張られて引っ張られてもう、大変。寝不足で頭ふらふらでも、禎子と一緒になって冬の金沢をふらふらしちゃう。

それはやはり、文章の運び方、言葉の選び方、進め方が実に上手いんですね。

読者に語りかけるような文章、といいますか、すぐれた語り部の物語を聞いているような錯覚を覚えます。事件や謎があっても、探偵は出てきません。妻といっても、実はまだよく知らない、という微妙な関係を上手くつかって、過去を立ち上げる。

あまりにもかけ離れた設定だと、ファンタジーになってしまうのですが、実に地に足がついた、しっかりとした筆運びでもって、昭和33年それは戦後まだ13年、言い方変えればもう13年の日本の社会をあぶりだす。

謎があってもその背景にある社会がきちんと説明できていて、新聞記者だったという説明の上手さを感じます。

時代は古いかもしれないけれど、決して古臭くはなく、今も通じる社会へのまなざし

当然ながらもう、何回もドラマ化はされているとは思います

節度のある文章というのは古びないのだ、と改めて感心。